2010年10月25日

悪人

悪人

監督:李相日
原作:吉田修一
脚本:吉田修一・李相日
撮影:笠松則通
編集:今井剛
出演:妻夫木聡/深津絵里/満島ひかり/岡田将生/光石研/樹木希林/柄本明ほか


李監督は「フラガール」以来2作目です。
前作はあまりの感動を強要するような作風と松雪泰子の演技の下手ぶりに絶句でしたが
今度はシリアスな犯罪ものだし、モントリオール映画祭受賞の話題もあって
懲りずに鑑賞。


ファーストシーンは好ましいものでした。
ガソリンを入れるところから始まり、車の疾走感、
山道を走った先に広がる都市の夜景。
ロードムービー的な始まりは、
良作の予感すらありました。

そして妻夫木君はもちろん、満島ひかりさんと岡田将生の好演もあり、
前半ぐいぐいと引き込まれていました。
ホントにいそうな軽薄な友情で結ばれた女達の会話、
軽々しい男と女とその絡みと結末、(あれ、ホントに蹴られて頭ぶつけてたよな?)
そして妻夫木君のキレた瞬間。
樹木希林さんも最初の台所のシーンと妻夫木君との食事のシーンはよかったし、
柄本明さん、光石研さんの抑えた演技もすばらしかった。
特に柄本明さんの、娘の死体を確認する場面には思わず胸が詰まりました。

しかし、深津絵里さんが出てきたころから、
少しずつ「?」な場面が出てきた。
まず、二人の関係が深まるまでがあまり描けていないこと。
最初のホテル直行のデートの後に、謝りに来て、
もうそこから離れられない二人みたいになっちゃう。
また、妻夫木君が深津絵里に殺人を告白する大事な場面で、
まだ料理も運ばれてないのに、そのタイミングでの告白に違和感。
二人が初めて食事をすることってとても大事だと思うのに、食べてないし。
この辺で、二人の関係性を描く大事なポイントをスルーしてしまってる。
さらには、イカのドアップからズーミング、そしてイカの目から回想シーンに入る所。
イカって・・・???
ここ、笑わせるところ?

あと、二回目のセックスシーンは、一回目が挿入だけだったんだから、
もっとそれ以外を撮らなきゃいけなかったと思う。挿入シーン3パターンは貧相。
もちろん役者の制限はあったにしてもだ。


そしてさらに後半、前作の片鱗が見え始める。
最初は効果的に見えた沈黙の演出も、多用しすぎて効果が薄まり、
だっさいスローモーションに完全にしらける。
果てには樹木希林すらヘタクソに見えてきた。
(近年の彼女は役柄も一辺倒だし、演技も決まってきてしまっている)
祐一の母とか出てこなくてもよかったしさー、
後半はいらないシーンが多いと感じた。
松尾スズキの出てくる場面とか、バスの運転手の場面とかいらないから、
その分前半でもっと妻夫木君のキャラクターを掘り下げて欲しかった。
おそらくは樹木希林と柄本明の役柄にも注視したかったのだろうが、
樹木希林のキャラクターについてはもはや説明はいらないと思うし、
柄本明の家庭のシーンは宮崎美子が台無しにしてしまっている。
事件現場に行って娘の幻影を見る場面も、もう少し映画的にならなかったか。
岡田君に襲いかかるシーンも、2回に分ける必要があったか。
うまく行ってないから、余計にいらないと感じた場面もあった。

カメラは、後半特にアップが多かった。
カメラマンは坂本順治監督と近年よく組んでいる方だけれど、
編集の悪さもあって、あまり気持ちがいいカメラとは思えなかった。


ただ、ロケーションと美術はすごくよかったと思う。
祐一の海辺の鄙びた家と、灯台あたりの断崖。
本作のHPを見ると、美術監督は「スワロウテイル」を手がけた
種田陽平さんだそうだ。
やっぱり好きですね、この人は。



さてまた好き放題書いてしまったけれど、
この監督は難しいですね。
正直言って好きじゃない。
きっと、ハリウッドとか行っちゃって、
メジャーなクソ恋愛映画とか撮りたいんじゃないかな。
分かりやすさをそんなに追い求めなくてもいいのに、って思う。

しかししかし、出演陣は前述の二人のぞいてみな好演だし、
原作はおもしろそうなので読んでみたいと思う。
今後に期待です。



Posted by henry at 03:09│Comments(0)
 
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