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Posted by TI-DA at

2014年05月22日

8月の家族たち


監督:ジョン・ウェルズ
原作戯曲: トレイシー・レッツ
脚本:トレイシー・レッツ
撮影:アドリアーノ・ゴールドマン
出演:メリル・ストリープ
ジュリア・ロバーツ
ユアン・マクレガー
クリス・クーパー
アビゲイル・ブレスリン
ベネディクト・カンバーバッチ
ジュリエット・ルイス
マーゴ・マーティンデイル
ダーモット・マローニー
ジュリアンヌ・ニコルソン
サム・シェパード
ミスティ・アッパム

【ネタバレあり】

原作はもともと戯曲であり、つまり舞台劇/群像劇であるので、
映画にした時、俳優の運動に工夫をしないと、みな棒立ちで演技しているような画になる。
そこにきて、なぜかずっと製作(プロデューサー)をやっていた男が監督をするというイタい采配。
しかも、原作者が脚本を手掛けるというのも、往々にして失敗することあり。
この時点で不安が過るわけだが、見終わった後、その不安は的中してしまう。

この映画のすばらしさは俳優の演技に尽きる。
でも主役以外の、と付け加えないといけないのが残念だ。

私は正直、主役のメリル・ストリープの舞台っぽい演技に辟易してしまった。
頭髪を抜くのは勇気ある行為だと思うけど、そういう表面上の役作りだけで、
中身の演技については近頃一辺倒に見えてくる。
あの上目遣いの、少女のような笑みを浮かべるのはもうよしたらいかがだろうか。

それ以外の俳優はとてもすばらしかった!スプレンディッド!
久々にマーゴを見られたのも嬉しい。(彼女を知らない方は「パリ・ジュテーム」をどうぞ。)
クリス・クーパーとカンバーバッチ親子も完璧。かわいいリトル・カンバーバッチ。

シーンとして一番の見所は、役者全員があつまる食卓のシーンだ。
ここばかりはカメラも気にせず、グッと俳優の演技にのめり込んでしまった。
それぞれの演技の凄みに息を呑みます。
ここだけでも是非観て欲しい。

そして三姉妹もすばらしい。特にジュリア・ロバーツは、もっともっともっと映画に出て欲しい。
とっくに「プリティ・ウーマン」の殻をつき破って、貫禄ある姿を見せつけています。
でもせっかくのサム・シェパード、あんなちょっとでは寂しすぎる!
しかも彼のラスト、とってもいい顔をしているのに、
人が死ぬシーン(それもサム・シェパードの!)をあんな程度しか撮れない監督は、まったくもって信用できない!!
というか、はっきり言ってこの人を映画監督と言っていいのか?というレベル。

ファーストカットは決して悪くない。
しかし何より肝心なラストカットで、自らをイマジネーションのない監督だと証明してしまっている。

映画全体の、ひどく創作力の欠如した、恐ろしくつまらない映画の撮り方。
母娘が薬を取り合いもみ合いになるシーンの、アクションの下手クソさ。
何もないオクラホマ州の広大な景色以外、全く画力がない。
クソ熱いはずのオクラホマ、何℃という数字以外に熱さも渇きも伝わってこない!
逆に監督の演出力のなさを差し引いてもなおこれほどすばらしい演技を見せつけた俳優陣に拍手が止まらない。

また女ニ世代の映画なので、特に女性には響いてくる物語だと思う。
脚本については、例えば、葬式からどれくらい経っているのかといった時系列や、今この家に誰が泊まってるのかさっぱり分からないといったようなけっこう重大な問題があったりするものの、
登場人物の説明とそのキャラクターはほぼその登場シーンで明確に描かれるため、群像劇としてはとても観やすかったし、原作はもっと味わい深いものだろうという予感すらありました。
(原作の戯曲「August: Osage County」はピューリッツァー賞&トニー賞を受賞)

この映画には、クルーニー兄貴のメンツを讃えて、キャスティング賞を贈りたい。
こんなすばらしい俳優が揃った映画はそうそうない。
それだけでも見る価値は十分、十二分にある映画です。
そしてぜひ、彼らが出ている他の映画をチェックしてほしい(笑)

でも個人的には、カンバーバッチのやさしい歌声だけで十分満足でした。  

Posted by henry at 21:40Comments(0)

2014年05月02日

それでも夜は明ける



監督:スティーヴ・マックイーン
撮影:ショーン・ボビット
脚本:ジョン・リドリー
出演:キウェテル・イジョフォー/マイケル・ファスベンダー/ベネディクト・カンバーバッチ/ポール・ダノ/ルピタ・ニョンゴ/ブラッド・ピットほか

米アカデミー作品賞を受賞した本作。
いや、すごく見応えのある映画でした。
でも、なんかもったいない映画でもありました。

アメリカの奴隷制度という、重大なテーマに向き合った真摯な脚本。
ファスベンダー、カンバーバッチ、製作も務めたブラッド・ピットなどの演技派俳優たち。
しかし肝心の、演出とカメラがイケてない。

この映画を観て、どこか登場人物に感情移入できないと思った人は多いんじゃないんだろうか。

監督とカメラマンは前2作「SHAME」「HUNGER」でも一緒。
その前作でも感じたことだが、このカメラマン、あんまり映画っぽくない。
人物全部アップ、悪くないけど多用しすぎで効果減。
いい画もけっこうあるのに、撮り方が基本正面みたいなワンパターンでいま一つ魅力に欠ける。
動きが少なくて静止画観てる気分になる、写真家に近いカメラマンだ。

監督も、演出力がないわけではない。
しかし誰目線で撮るのかといった選択に於いて、主体性のない捉え方をしているように思う。
だから人の感情も切り貼りされてしまい、感情の流れが観客に伝わらない演出に終始してしまっている。
淡々と撮りたいのはわかる。でも、じゃあいちいち人物をドアップで観てるのはいったい誰なのか。
脱走時の主観ショットのようにそれがシーン毎に明確でないと、観客はどこから、誰目線でこのドラマを目撃しているのか混乱し、結局ただ傍観してしまう結果になる。
またいらないシーンも削らないのも、主体性のなさを感じる。
隣に寝てる女とのシーンを、冒頭に持ってくる意図が分からない。

編集にももの申したい。今回の編集マン、ジョー・ウォーカーも前2作一緒だけれど、なんかリズムが悪いというか、前後の繋がりが不味いとか、長いとこは長過ぎるように感じ、全体の流れの悪さを助長しているように思う。

しかし作品全体で言えば、当時の黒人側、白人側それぞれの生々しさが如実に描かれていて、とても興味深かった。
どんな立派な人物でも黒人ひとり救わない。主人公ですら、仲間の奴隷を助けない。
少なくとも「ホテル・ルアンダ」のような偽善で終わらないのも好感が持てる。
個人的には「殺してくれ」と無言で訴えてくる、ルピタ・ニョンゴの眼が印象深い。
もっと良くなる映画だけれど、十分見応えのある映画です。  

Posted by henry at 03:49Comments(0)

2014年01月14日

ホワイトハウス・ダウン



監督:ローランド・エメリッヒ
脚本:ジェームズ・ヴァンダービルト
撮影:アンナ・J・フォースター
出演:チャニング・テイタム/ジェイミー・フォックス/マギー・ギレンホール

監督は「インディペンデンス・デイ」「デイ・アフター・トゥモロー」「2012」など
数々のパニック・ムービー的な大作を撮ってきた監督。
この監督のいい所は、いつだってハチャメチャでご都合主義なおバカアメリカ映画を撮るけれど、
最後にちゃんとハッピーエンドで、観客が「とりあえず良かったね」って安心できるところだ。

脚本はジェームズ・ヴァンダービルト。
これまでどんなアホ映画を書いてきたのだろうかと調べてびっくり!
フィンチャーの「ゾディアック」の脚本、単独でクレジットされている・・・あれ?
そのあと1クッションあって「アメイジング・スパイダーマン」(2012)だから、
フィンチャーと出会って、どっか開き直っちゃったのかもしれない。

撮影はTVドラマの監督。映画は他に1本経験あり。

主演のチャニング・テイタムは、日本未公開だけどアメリカでは大ヒットした
コメディ・アクション映画「21ジャンプストリート」などで、今かなり人気の俳優。
(ちなみに「21ジャンプストリート」は続編も近々公開になるので必見!)

さて、ここまで読んで下さった人にはすみませんが、私はこの映画について特に批評はしません。
批評するほどの映画ではありません。
単に娯楽映画として観るのが正解です!

なんたって、突っ込みどころ満載のシナリオに、
主演だけになぜ弾が当たらないのか不思議になるアクション演出。
なかなかそういうところも愉快な映画であります。

あと、子役がレイチェル・ワイズにそっくりだなとか(笑)
最後に旗ふりをお父さんに見せられて良かったね、って、なんで子供が大統領の自家用機に乗ってんの!?
とか、本当に観る者にツッコミませて休ませてくれない愉快な映画です。

ただ、脚本家は一緒なのに、こうまでも監督で変わるのかという好例になるのかもしれない。
まとまりませんが、こんなところで。  

Posted by henry at 00:43Comments(0)

2014年01月13日

キャプテン・フィリップス

「キャプテン・フィリップス」

※映画を観た後に読んで下さい。

監督:ポール・グリーングラス
撮影:バリー・アクロイド
出演:トム・ハンクス
脚本:ビリー・レイ

「ボーン・アルティメイタム」の監督が「ハート・ロッカー」のカメラマンで
「ハンガーゲーム」で人気の脚本家の本を撮った。
 …というのが一番この映画を的確に表現しているのかもしれない。
 トム・ハンクスの見事な演技があってこそ、見るべき価値のある映画。

この監督は、緊迫感を演出するには名手だと思います。
観客は船長が船に乗り込んでからラストまで、ずっと緊迫感に襲われ続ける。

ただ私は始まって5分も経たないうちに、
「この人たちは、映画を大画面で観ることを想定して撮らなかったんじゃないか」と思い、
「DVD鑑賞でも良かったか・・・」とちょっと後悔する。

「ハート・ロッカー」のカメラマン(名前を覚えるつもりはないのでこう呼びますが)は、
リアリティ重視の絵の決まらないガタガタ動く近視的な、偽ドキュメンタリスティックなカメラ。
ドキュメンタリーは対象に寄り添うカメラだけれど、これはただ近くで撮ってるだけ!
おかげでエンドロールが揺れる波間に見えたくらい、船酔いしたような気分。
でもアップが多いおかげで、ソマリア人の顔の判別には役立ったけれど。
(誰が誰だか判別つかないうちに、気がついたら4人に減っていた…)

このガタガタ動く、という感想には、カメラだけでなく編集も大きく寄与している。
この映画の編集マンの名前はクリストファー・ラウズ。
この監督とはボーン・シリーズと「ユナイテッド93」などでずっと組んできてますね。
これまで、このブログでも一時期ずっとガタガタ編集すんな!と訴え続けてきましたが、
元凶はコイツです!コイツなんです!(怒)クソ・ラウズ!うるせー編集すんな!
あ、もちろん編集だって、監督の責任も重大ですけどね。

続いてポール・グリーングラス監督、略してPGGと呼ばせていただきますが、
もう、今の時点ではこの人に関して特に語ることはないかもしれない。
冒頭にも書いたように、確かにPGG映画の緊迫感はすばらしい。
カメラが近いので臨場感もある。
でも何か、【映画の決定的な瞬間】を捉えられない人だと思っている。
この映画ならたとえば、「救命艦から脱出できた瞬間」だ。
その瞬間が印象に残っている観客がどれほどいるだろうか?
もちろん感動的な音楽を流すとかベタな演出を望んでいるわけではない。
でもおそらくは血まみれのトム・ハンクスの方がすっかり印象づけられているのではないか?
あまりに偽ドキュメンタリスティック、偽リアリティにこだわりすぎて、
映画が映画であることを忘れている気がする。
もし、救助された瞬間に観客がもっと一息ついて落ち着くことができたら、
その後の衝撃がよりいっそう際立っただろう。
この監督は、観客に呼吸をさせるのが怖いのだ。

そんな監督だから、この映画の「決定的な瞬間」は、ひとえにトム・ハンクスの演技に委ねられている。
それは船長が救助された後の、観る者に衝撃と恐怖を植えつける、あの姿だ。
この瞬間ばかりは、近すぎるカメラも功を奏している。

しかしトム・ハンクスの演技のすばらしさは例えようもなく、類を見ない。
この映画はトム・ハンクスによって観客を納得させ、そして報われた。
  

Posted by henry at 03:59Comments(0)

2013年12月08日

ポルトガル、ここに誕生す ギマランイス歴史地区



2001年にユネスコ世界文化遺産に登録された、ポルトガル北西部にあるギマランイス歴史地区。
そこで製作された、現代ヨーロッパ映画界を代表する四人の巨匠
―アキ・カウリスマキ、ビクトル・エリセ、ペドロ・コスタ、マノエル・ド・オリヴェイラ―という
夢のようなラインナップによる、異なる四つの物語を集めたオムニバス作品。(allcinemaより引用)


1篇目. 「バーテンダー」 脚本・監督:アキ・カウリスマキ


いつもながらの静かな映画。
いつもながらの落ち着いたカメラと、無骨なほど無口で純粋な男。
しかしながら、アキの魅力を濃縮したような味わい深い短編です。

スープの味が、温かい過去の灯りを胸に伝える。
でもバスを降りる人々に宿る現実に、あっけなく夢は醒め、打ち捨てられた赤い薔薇。
まるで「人生の救いはこれだけ」と言わんばかりに流れ続ける音楽が、
可笑しくも切ない私たちの人生を明るくいやす。
フィンランドのチャップリンは、今日も無口に人生を語る。


2篇目.「スイート・エクソシスト」 脚本・監督:ペドロ・コスタ


こんなボロクソ言うなら書くなよ、って感じですが…書きます。
ペドロ・コスタよ。
そんなに多くを語りたいなら、本を書けばいい。
セリフで語りたいみたいだから、戯曲なんかどうだろう。
この作品にして、私は彼を映画監督だとは認めない。
こういうのをムダに映画館の大スクリーンで観させられるとホント腹立つ!
私は“映画”を観に来たんだよ!って叫びたくなる。


3篇目.「割れたガラス」脚本・監督:ビクトール・エリセ


陰翳の美しさよ!
光と影の柔らかな詩が、人々の過去を静かに物語る。
男がアコーディオンを手にすると、影が少しだけ伸びて人々の時を奏ではじめる。
モノクロームの過去からのまなざしが世界を映しだす。

観賞後もずっと心が震えて止まない。

ビクトール・エリセは光と影の神だ。


4篇目.「征服者、征服さる」脚本・監督:マノエル・ド・オリヴェイラ


何分だったんだろう…?
何ともお茶目な、あっさりしたフィルム。
バスの窓辺に映る美しい来訪者と、
古い街に流れる昔と変わらぬ風や陽光、そしてじっと(辛抱強く)佇む歴史。

104歳!のおじいちゃん、またもや軽快にステキな映画を撮りました。
銅像を仰ぎ続ける理由を、そろそろ教えてもらわなければいけません。  

Posted by henry at 02:21Comments(0)

2013年12月07日

風立ちぬ(アニメ/2013)


原作・脚本・監督:宮崎駿

言わずと知れた宮崎駿監督、
最後の長篇アニメーション映画。

めくるめく夢。夢。夢。若き夢。希望の夢。夢を奪うような現実。
狂気の風に舞い踊る夢。儚き夢。砕け散る夢。風のように去る夢。
途方もなく美しく、そして愛おしい夢の映画。

最後の最後でファンタジーを離れて、
こんなすばらしいストーリーテリングをして去っていくなんて。
なんてもったいない、とは想うけれど。

最後にこんなまっすぐな清い映画をありがとう。
監督最高の傑作です!
  

Posted by henry at 00:57Comments(0)

2013年01月04日

桐島、部活やめるってよ



監督:吉田大八
脚本:喜安浩平/吉田大八
撮影:近藤龍人
キャスト:神木龍之介/橋本愛/大後寿々花/東出昌大

去年公開の映画ですが、2012邦画で1、2位を争うくらい
面白かったので紹介します。

旦那があんまり勧めるのでギリギリ最終日に観に行って、
クソ、もう一回観たかったと後悔するほど面白かった。

長くなりそうなので言いたいことの要点をまとめておくと、
まず役者の演技がみんなすばらしかった。
そりゃあ1ヶ月もワークショップすればね…というのは
低予算映画サイドの僻(ひが)みとして(笑)
だって演技初めての東出昌大くんがこれだけ魅せてくれるんだもん。

しかしパリコレモデルからの転身って…23歳ですごい経歴。
村上春樹の主人公役なんてぴったり。
写真よりも映画の方が断然かっこいい。

あとは吹奏楽部役の大後寿々花も、
沙奈役の松岡茉優も女子では一番の好演だったし、
映画部のふたりもとってもかわいかった。
一番キャラが強烈なのは野球部のキャプテンだけど(笑)

これだけ登場人物がいてもキャラクターがみんな立っていて、
もちろんだからこそこの映画が群像劇として成立するのだけど、
これは脚本だけの成果ではなく、間違いなく監督の演出力と、
ワークショップの賜物でしょう。

生徒同士の会話がリアルで、冒頭の男子をからかうシーンとか、
「おっまた」とか、4人の女子の会話が(ほぼ沙奈の独り舞台だが)気味悪いくらい。
脚本はナイロン100℃の喜安浩平さんがベースを書かれたそうなので
これからチェックしていこうと思う。

シナリオについては評を避けますが、「現金に体を張れ」「パルプ・フィクション」の
同じ出来事を別の視点で描く手法(誰か名前を付けてくれ!)を用いたり、劇中に
出てくる映画の題名がいちいちハマったし、「鉄男」(しかもあのシーン!)を観る
シーンが出てきたり、原作では岩井俊二好きだった主人公がロメロ好きになってたりと、
マニアな映画愛が感じられて、いちいちニヤニヤしてしまった。
吉田監督、好きな映画は何ですか?

話を戻して撮影は山下敦弘監督作品の多くや「ウルトラミラクルラブストーリー」、
最近では「さや侍」を撮った近藤龍人カメラマン。
過去作も本作も特にこれといった印象に残った画があったわけではないし、
吉田監督自体もさほどカメラワークを重要視しているようには思えないけれど、
主観ショットの使い方やフィックスと移動ショット、あるいはアップか遠景かといった
バランスなどは観ていて気にならなかった。
もともと監督がCMディレクターを長くやられていたせいで、これまでの監督映画では
かなりCMっぽい絵が多くて個人的には鼻にかかっていたけれど、
本作では(過去作品に比べたら)だいぶCM臭さが抜けていたように思います。
それは近藤カメラマンのおかげかも知れない。

とにかく、あのラストに収束していくそれぞれの人物の思いは、
学生生活を送ったことのある誰しもに響くはず。
まるで、村上春樹の小説を読んでいるようでした。
あっぱれ!次回作も楽しみです。  

Posted by henry at 02:54Comments(0)

2013年01月02日

007 スカイフォール



監督:サム・メンデス(「アメリカン・ビューティ」「ジャーヘッド」)
撮影:ロジャー・ディーキンス(コーエン兄弟作品でおなじみ)
脚本:ニール・パーヴィス/ロバート・ウェイド/ジョン・ローガン
出演:ダニエル・クレイグ/ハビエル・バルデム/ジュディ・デンチ

横顔のおかしな俳優二人が共演する007最新作!
まだ観ておられない方は読まない方が無難でしょう。

脚本家のお3人はたぶん中学生でしょうね。というくらい話はお粗末だったけど、
映像的にはロケーションのすばらしさとロジャー・ディーキンスのおかげで
楽しめた内容でした。

ツカミのアクションシーンはバイクでバザールの屋根を走ったり、
大迷惑な列車のシーンも笑えたし、ツカミとして充分だったと思う。
(なぜ無線で「伏せろ」の指示くらい出せなかったのかは中学生の冬休みの宿題にするとして…)

軍艦島のロケーションは、悪役登場の舞台としてインパクトがあっておもしろかった。
けどあんな切れっパシみたいなつまんない殺人にはもったいなかった。
もっと舞台装置として有効な使い道があるでしょ、中学生!
それに彼女の使い方もそりゃないでしょって、中学生!

また終盤の、スカイフォールのロケーションも良かった。
すり鉢の底にぽつねんと立った城のような廃墟と、頭上を重たげにもたげる厚い霧が
その名にふさわしく思えた。

水のシーンの美しさはさすがロジャー・ディーキンス!水中はやっぱり美しい。
また闇と炎の、猟場や教会での照明演出にうっとり。

映像にうっとり、こっぱずかしい脚本にげっそり、
なんだか落ち着かない映画ではありましたが、
渋い役者陣にも助けられて見応えある映画になってると思います。
ダニエル・クレイグ、ハビエル・バルデムのおかしな横顔に乾杯!
  

Posted by henry at 15:48Comments(0)

2012年12月01日

ALGO



監督:ベン・アフレック
撮影:ロドリゴ・プリエト
出演:ベン・アフレックほか


ベン・アフレック監督作品、初めての鑑賞でした。
以前より監督作品は評判がいいと聞いて、期待して観ました。

タイムリミットものとして定番のあおり方、
ちょっと説明の多さもやや気になったものの、
序盤の映画の発端となる米大使館での事件もツカミとして悪くなく、
市内を移動中の車内で民衆に取り囲まれる恐怖、
バザールでの一触即発の空気、
家政婦と武装市民の玄関でのやり取りの緊張感、
それらのシーンでの演出力が私たちを感情移入させ、
私たちをこのプロジェクトの目撃者とさせることに成功させている。
ラストには役者のいい表情を捉え、私たちにもようやく安堵の時が与えられる。

エンドロールに実際の人物達の顔写真が並べられるのも、
この企画に入れ込んだ熱が感じられて良かった。
また、家政婦の物語もちゃんと回収している脚本もよかった。

脇役のジョン・グッドマンが私を画面上で安心させてくれたし、
ベン・アフレックも好ましいひげ面にアイドル臭さはもうなく、
以前よりずっと渋い役者になっていて好感が持てた。

前作の「ザ・タウン」も近日中に観たいもんだ。  

Posted by henry at 17:46Comments(0)

2012年02月25日

ドラゴンタトゥーの女



監督: デヴィッド・フィンチャー
脚本: スティーヴン・ザイリアン
原作: スティーグ・ラーソン
撮影: ジェフ・クローネンウェス
編集: カーク・バクスター
出演: ダニエル・クレイグ/ルーニー・マーラほか


ミステリーとしてそれなりに面白かったし
映像的にも飽かず観れたんだけれど、
なんでしょうね、
フィンチャーの映画はいつも、
観た後じわじわといい知れぬ不快感を覚える。

前にも書いたかも知れないけれど、
フィンチャーは人間嫌いで超ドS(エス)な奴だと
私はこの人の映画を観ていつも感じる。

だからいくら女優のパンツを脱がせて
本気でセックスシーンを撮ったとしても、
心がないから白けちゃう。

この感情的な抑揚のないセックスシーンから始まる
恋愛の結末をラストシーンに持ってきちゃうあたり、
たぶん自分ではそのことに気づいていない。
「ベンジャミン・バトン」のような駄作を作っても
まだ自分は人間を描けると思ってる。

その足りない部分が脚本を削れないところにも出てる。
脚本のスティーヴン・ザイリアンは古くは
「レナードの朝」「シンドラーのリスト」「ハンニバル」
などの脚本を手掛けた名脚本家だが、
最近では「アメリカン・ギャングスター」など駄作も書いてる。
本作でも正直ごっそりいらないシーンもあったし、
どうやら年を取って口数が増えてしまったようだ。

撮影監督は「ファイト・クラブ」「ソーシャル・ネットワーク」でも
タッグを組んだジェフ・クローネンウェス。
この人は割と動き(特に横移動)のあるカメラで好きだが、
今回はシーンごとに動きがややパターン化されてたのが気になったし、
編集があまり上手でなかったせいで良さが十分引き出されていない。

編集はカーク・バクスター。
「ソーシャル・ネットワーク」ではアカデミー編集賞を受賞。
確かにこの作品では主役が早口な設定も手伝って
編集がキマッてたけど今回はいまいちだ。

あ、全部ダメだししてしまっている。
フィンチャーせいで機嫌が悪いせいだ。

ついでに言うと、スウェーデンまで行った割には
あんまり北欧のすばらしい風景を見れなくて残念だ。
ファーストショットも悪くはないが、
もっとハッとするような景色がいくらでも撮れる
美しい国なんだけどな。

しかし役者はみんなよかった。
(ハリエット役はぱっとしないが)
特にルーニー・マーラはすばらしいし、
脇役のクリストファー・プラマーも
ステラン・スカルスガルドもいい。
フィンチャーは役者選びはすばらしい。

でも、フィンチャーが撮るシャワーはいつも冷たい。
今回だって冬のスウェーデンなのに冷水シャワーだ。
まったくもって温もりを感じない絵しかとれない監督だ。
でもそこが、彼の映画の魅力だったり売れてる理由なのだ。
あ〜寒い寒い。

  

Posted by henry at 01:30Comments(0)

2011年10月30日

ふたりのヌーヴェルヴァーグ


監督:エマニュエル・ローラン
製作:エマニュエル・ローラン
脚本:アントワーヌ・ドゥ・ベック
出演:イジルド・ル・ベスコ

ゴダールとトリュフォーを映画館で観れるなら、内容は悪くても構わない。
そういう方は是非ご覧あれ。
実際わたしもそのイキゴミで観に行って、単純にファンとして
記録映像だけを楽しみました。

でも、それだけ。
監督の想いとか思想とか全然感じられない。
出来の悪い学生のレポートを見させられた感じ。
まだンHKとかのアーカイブ映像番組とかの方が、金かかってるだけ出来がいいはず。
要は、内容の薄っぺらい、記録映像の羅列だったということ。

ファンならほぼ知っている事実をただ追っただけの内容の上に、
折々資料を調べている男女の説明カットとかもマジいらんし、
映画館の座席を転々とするシーンとか、死ぬほどいらねー。

「きっと監督は、これを"映画”として作ったんではないんだ」と
勝手に合点することにする。

じゃないと納得が行かない!
まさかこの二人を取り上げておいて、
まさかこんなクソな映画を撮るなんて、
きっと何かの間違いにキチガイナイ。
  

Posted by henry at 23:00Comments(0)

2011年08月24日

THE TREE OF LIFE(ツリーオブライフ)





監督・脚本:テレンス・マリック
撮影:エマニュエル・ルベツキ
出演:ブラッド・ピット/ショーン・ペン/ジェシカ・チャステイン


言わずと知れた現代の巨匠、テレンス・マリック。
過去作品に「天国の日々」「シン・レッド・ライン」などなど。
「天国の日々」は(前にも書いたような気もしますが、)
マジック・アワーという映画用語を創り出したと言われる不朽の超名作。
「シン・レッド・ライン」も色んな意味で恐ろしい映画です。
未見の方は死ぬまでにぜったいにご鑑賞あれ。

さて、本作すでに2回観ました。
正直1回目は後半まったりしすぎと思いました。
でも2回目はあっという間に終わっていました。

とにかく、こんなに五感を興奮させてくれる映画は久しぶり。本当に久しぶり。
さらには始まって5分で(滝のシーンでした)えも知れない情動が沸き起こって
くしゃみが出たのは、「UP(邦題カールじいさんの空飛ぶ家)」以来。

(二回目は)耳も目も脳も最初から最後まで痺れながらの138分。
しかし心にはゆったりと、壮大な映画が流れていました。
モルダウの、または悠久の時の流れのように。


この映画は、おそらく賛否両論あるでしょうね。
物語で映画を語る人にはあるいは退屈かもしれません。

最初に観た時、これは自分自身と対峙する映画だと思いました。
というのも、監督は元哲学の先生だけあって、特に本作は観念的だからです。
それを、説教臭いといったような評論を書く人もいます。
けれど、私はこの映像美に説教もクソもないと思います。
ただ美しく、観念的であって何が悪い!
映画を文化と思わない人の、なんと多いことか。
どうか、この映画は絵画のように観て下さい。

しかしそんなことをいいつつも、
2回目に観に行った時、事前には途中で出る気でいました。
前半の優雅で壮大な物語を、美しい映像だけを楽しめればいいと。
そうして外に出て、ひとりで思考に耽ろうと思っていました。
本編の後半は家族不和の話になり、舞台が動かなくなって
画がつまらないと思っていたのです。

ところが2回目、私は盲目だったことに気づきます。
陽光の曝け出された、家族の不満や怒りや悲しみや空しさ。
長男の鬱屈した表情と行い、次男の素直で純粋なまなざし。
人は迷い、空を仰ぎ、何度も道を行きつ戻りつしては、振り返る。
家族の思い出を、自分の行いを。

次男の温かな微笑みと、肩にふれた手のぬくもりが、静かに深部を溶かして。
そして辿り着いた、海へとつづく道。

↑ああ、言葉にすればチープだけれど(私の文才の問題か)
 見終わって足元を観たら、素足の指の間に白い砂がさらさらと流れていました。


ひたすら美しく、観念的で、
けれども映画としての表現そのものでした。

あの傷ついた恐竜とか、幼いことよく観た家の中を泳ぐシーンとか、
きっとこれからもふと思い出すんだろうな。

最後に、テレンス・マリック監督の新たな奇跡を心から願うとともに、
敬愛なるエマニュエル・ルベツキのカメラに永遠の賛辞を贈ります。
  

Posted by henry at 00:31Comments(1)

2011年03月04日

ゲゲゲの女房



監督:鈴木卓爾「私は猫ストーカー」
撮影:たむらまさき
原作:武良布枝
脚本:大石三知子/鈴木卓爾
出演:吹石一恵/宮藤官九郎


鈴木監督ばんざい!
あの1週間で撮った「私は猫ストーカー』から、
いきなりこんな大作を撮るなんて、
なんと嬉しいことでしょう。

前作のクランクアップの際、真摯に「映画を撮り続けたい」と告げた
その言葉が、こうやって叶って本当によかったと、
このステキに地味な、まっすぐな思いで創られた日本映画を観て感じました。
あ〜、監督が心筋梗塞で倒れなくてよかった・・・
(→意味が分からない方はこの記事の最後らへんをご覧あれ)


特に前半、古き良き日本映画を思わせるいくつかのシーンがあって、
私はファーストシーンの、あの野草が生い茂る曲がりくねった小道だけで
溝口映画を思い出して嬉しくなって、また妻が夫の背中を流しに行く前に
靴下を脱ぐシーンを入れたことで(それもアップで)、
ああやっぱり溝口好きなんだと勝手に納得したりしました。

狭い家屋の撮り方や見せ方にも、堂々と王道を行く潔さがあり、
また妻の実家や夫宅の美術やさりげない照明、色調、ロケーションなどとっても、
あの4:3画面の映画を観ているような佇まいの良さを感じて、
ああこの映画はすごく王道で、日本映画らしい日本映画だと
近年、全くもって感じ得なかった感動ともいえる思いに浸ったのであります。

たむらまさきカメラマンはすばらしい!(実は超大物)
豊かな画を、命ある限り撮り続けてほしいと切に願ってます。
そしてまた「ウンタマギルー」のようなすごい沖縄映画を撮って欲しいな!


宮藤官九郎の演技もメチャクチャ大変すばらしく良かった!
役者としては、比較するのも失礼な話ですが、
最近観ない日はないほど出られてる、香川照之さんよりずっと信頼しています。
宮藤官九郎は「嫌われ松子〜」の時ですら、すっごく良かったので。

だから誰か、吹石一恵さんも良かったけれど、
彼にも主演男優賞を獲らせてあげて〜!!!

片腕でのご飯の食べ方とか、服の脱ぎ方とか、
ハッハッハって豪快な笑い方とか、
メガネをうまく使った多様で細かい表情とか、
「屁です。」の言い方とか(笑)
じわじわとキャラクターがにじみ出る感じで、地味で細やかな演技が 完璧 でした。
もちろんそれは、役者もされている鈴木監督の演出手腕もあってのことですが、
最初細すぎて個人的には違和感があったものの、気づけば役者と役柄が自然になじんで
すっかり宮藤官九郎は武良茂になっていました。

そして鈴木監督についてですが、今回はどこが優れているとかそういうことより、
見終わったあと監督の人間性のようなものが浮かび上がってきた気がしたのが嬉しかった。
これはもちろん、監督が脚本にも携わっているという面から言えることでもあるけれど、
考えて考え抜いて創られたものは、やはりその人の哲学とか人間性とか、とにかく思想が
浮き彫りになってくるもので、それが本物なんだと思う。

鈴木監督は、すごく不器用な生き方をする人だと思う。
そして真面目で、謙虚で、繊細で、とびきりまっすぐな人だ。
この作品を生み出す過程でも、すごく迷いながら進んできた感じがして、
主人公の物語とは別に、監督の生の姿を見たように感じた。

いい監督がいて、ああ日本にいて良かったと思える作品を期待してます。
これからも脇目ふらず、ガンガン映画撮って下さい。


たまーに、こうやって姿を見れるのも嬉しいですが↓



振り向いて倒れるという難しいアクションをごく自然になされてます(笑)  

Posted by henry at 23:26Comments(0)

2010年11月08日

扉をたたく人



脚本・監督:トム・マッカーシー
撮影:オリヴァー・ボーケルバーグ
編集:トム・マカードル
出演:リチャード・ジェンキンス/ヒアム・アッバス/ハーズ・スレイマン/ダナイ・グリラほか


アメリカの移民問題を背景に、
妻を亡くした孤独な男が移民の人々との交流により
変化していく物語。

監督は俳優のトム・マッカーシーで監督二作目とのこと。
(一作目は日本未公開の「The Station Agent」(2003)、
 んでなぜか「カールじいさんの空飛ぶ家」の原案者でもある)

とにかく丁寧に日常の物語を描く姿勢に、
監督の真摯な想いをしっかと感じました。

ファーストシーンでは、妻が残したピアノを弾くために
ピアノの先生を4人も解雇する場面。
この時の主人公のメガネの奥の瞳の鋭さなんか完璧。
主演リチャード・ジェンキンスは40年のキャリアで初主演!
この人の演技にはもう〜言葉がありません。自然すぎる!
最初の曇った頑な表情から、徐々に目が光を帯びて来るのがわかります。
また、若い二人の演技もよかった。
あんな神経質な黒人女性を映画で観たことがなかったし、
また快活なシリアの青年も後半アップばっかりだったけれどよかった。

単にジャンベで元気になるおじちゃんの話だと思っていたら大間違いで、
意外にもアメリカの移民問題だったり、疑似家族的な展開だったりして
さまざまな暗い影を映しながら控えめな演出で物語は淡々と進んで行くんだけど、
その中でもちゃんと人が笑ったり、怒ったりという情動が描けており
ヒューマンドラマ(って言葉は嫌いだけど)としても今年観た中でも最も良質な作品だった。
また拘置所に入るシーンやジャンベを習うシーンでは
HOW TOモノ的なおもしろさもあり、
物語で映画を見る人にも高評価を得られそう。
実際、アメリカの移民問題は大きな難題であり
その問題提起として、深く心に留まる作品になりました。

好きなのはNYの別宅に来て奥の部屋に明かりが着いていて
ゆっくりとそのドアに近づいていくちょいスリリングなシーンと
階段途中でタレクとゼイナブがこそこそ話をするシーン。
この監督、カメラの前を前後させたり(奥行きの演出)、
階段の高低差を利用するあたり信用できます。
というか、こんなすばらしい作品を二作目で撮るなんて
間違いなく才人です!

カメラも引き気味で好かんたらしい。
色もすごくよかったし、映画全体を通してショットの調和もとれていて、
見ていて久々に心地よかった。
ああ、映画館で観たかった・・・。

あと、やるせない悲運のあと、暗黒の海に浮かぶNYの夜景がよかった。
昼間、三人で船上で見たときとはまるで違う場所のよう。
あ、でもこのあたりの編集はちょっと短すぎたな。
なぜか急ぐような感じがあった。
尺は104分でちょうどいいのだけれど。

ラストシーンでは、ジャンベが怒りの音楽になったのが悲しかった。
楽しみだったものが、怒りを表現する道具になってしまう切なさ。
そしてその怒りの音さえも、地下鉄の騒音にかき消されるアメリカ。
「自由」も「正義」も、独善的すぎる。
  

Posted by henry at 01:07Comments(0)

2010年11月07日

ナイト&デイ



監督:ジェームズ・マンゴールド
脚本:パトリック・オニール  続きを読む

Posted by henry at 23:59Comments(0)

2010年10月25日

悪人



監督:李相日
原作:吉田修一
脚本:吉田修一・李相日
撮影:笠松則通
編集:今井剛
出演:妻夫木聡/深津絵里/満島ひかり/岡田将生/光石研/樹木希林/柄本明ほか


李監督は「フラガール」以来2作目です。
前作はあまりの感動を強要するような作風と松雪泰子の演技の下手ぶりに絶句でしたが
今度はシリアスな犯罪ものだし、モントリオール映画祭受賞の話題もあって
懲りずに鑑賞。


ファーストシーンは好ましいものでした。
ガソリンを入れるところから始まり、車の疾走感、
山道を走った先に広がる都市の夜景。
ロードムービー的な始まりは、
良作の予感すらありました。

そして妻夫木君はもちろん、満島ひかりさんと岡田将生の好演もあり、
前半ぐいぐいと引き込まれていました。
ホントにいそうな軽薄な友情で結ばれた女達の会話、
軽々しい男と女とその絡みと結末、(あれ、ホントに蹴られて頭ぶつけてたよな?)
そして妻夫木君のキレた瞬間。
樹木希林さんも最初の台所のシーンと妻夫木君との食事のシーンはよかったし、
柄本明さん、光石研さんの抑えた演技もすばらしかった。
特に柄本明さんの、娘の死体を確認する場面には思わず胸が詰まりました。

しかし、深津絵里さんが出てきたころから、
少しずつ「?」な場面が出てきた。
まず、二人の関係が深まるまでがあまり描けていないこと。
最初のホテル直行のデートの後に、謝りに来て、
もうそこから離れられない二人みたいになっちゃう。
また、妻夫木君が深津絵里に殺人を告白する大事な場面で、
まだ料理も運ばれてないのに、そのタイミングでの告白に違和感。
二人が初めて食事をすることってとても大事だと思うのに、食べてないし。
この辺で、二人の関係性を描く大事なポイントをスルーしてしまってる。
さらには、イカのドアップからズーミング、そしてイカの目から回想シーンに入る所。
イカって・・・???
ここ、笑わせるところ?

あと、二回目のセックスシーンは、一回目が挿入だけだったんだから、
もっとそれ以外を撮らなきゃいけなかったと思う。挿入シーン3パターンは貧相。
もちろん役者の制限はあったにしてもだ。


そしてさらに後半、前作の片鱗が見え始める。
最初は効果的に見えた沈黙の演出も、多用しすぎて効果が薄まり、
だっさいスローモーションに完全にしらける。
果てには樹木希林すらヘタクソに見えてきた。
(近年の彼女は役柄も一辺倒だし、演技も決まってきてしまっている)
祐一の母とか出てこなくてもよかったしさー、
後半はいらないシーンが多いと感じた。
松尾スズキの出てくる場面とか、バスの運転手の場面とかいらないから、
その分前半でもっと妻夫木君のキャラクターを掘り下げて欲しかった。
おそらくは樹木希林と柄本明の役柄にも注視したかったのだろうが、
樹木希林のキャラクターについてはもはや説明はいらないと思うし、
柄本明の家庭のシーンは宮崎美子が台無しにしてしまっている。
事件現場に行って娘の幻影を見る場面も、もう少し映画的にならなかったか。
岡田君に襲いかかるシーンも、2回に分ける必要があったか。
うまく行ってないから、余計にいらないと感じた場面もあった。

カメラは、後半特にアップが多かった。
カメラマンは坂本順治監督と近年よく組んでいる方だけれど、
編集の悪さもあって、あまり気持ちがいいカメラとは思えなかった。


ただ、ロケーションと美術はすごくよかったと思う。
祐一の海辺の鄙びた家と、灯台あたりの断崖。
本作のHPを見ると、美術監督は「スワロウテイル」を手がけた
種田陽平さんだそうだ。
やっぱり好きですね、この人は。



さてまた好き放題書いてしまったけれど、
この監督は難しいですね。
正直言って好きじゃない。
きっと、ハリウッドとか行っちゃって、
メジャーなクソ恋愛映画とか撮りたいんじゃないかな。
分かりやすさをそんなに追い求めなくてもいいのに、って思う。

しかししかし、出演陣は前述の二人のぞいてみな好演だし、
原作はおもしろそうなので読んでみたいと思う。
今後に期待です。
  

Posted by henry at 03:09Comments(0)

2010年08月15日

ブログタイトルを変えました。

「告白」の前は半年もアップ出来ていませんでしたね。
自分でもびっくり。

昨今、映画評とは言えない記事ばかりでしたし、
正直そんなに映画を語れるほどの力量ねえし、
もっと肩肘張らずに気楽に映画の感想を書きたいと思い、

タイトルを
「ヘンリーの映画評」から、
「ヘンリーの映画日記」に変えることにしました。

それでは、今後ともよろしくお願いいたします。
  

Posted by henry at 23:08Comments(0)

2010年07月03日

これは映画ではありません。再現ドラマです。「告白」



脚本・監督:中島哲也
原作:湊かなえ『告白』(双葉社刊)
撮影:阿藤正一・尾澤篤史
出演:松たか子・木村佳乃・岡田将生・西井幸人・藤原薫・橋本愛 ほか

思わずタイトルにしてしまいましたが、
これ、「CMディレクターがつくった、テイのいい再現V」ですよね。
役者の演技もビックリするぐらい舞台役者みたいなオーバーな演技で・・・。
(序盤抑えて演技をさせ、それから感情が爆発する場面があるのですが
 それがまるでマンガなんですよね・・・)
映画館で見るより、携帯の画面か、テレビ画面のサイズで見るように
つくられた映像なんじゃないかと思います。
そのサイズがふさわしいです。

これが今日本で一番ヒットしてる映画なんだと思うと、
やぱりお話の衝撃度とか、中島哲也というブランドとか、
そういったことで映画を観ている、もしくは評価する人が
多数を占めているのではないかという憶測が浮かんできます。

もっとも、このようなCMとか、PVみたいな映像、
好きな人多いですものね。
もちろん、それらとして観るならキレイですから、私も好きです。
しかし、ほぼ全編ナレーションのような長セリフで語られる、
映像はその説明(付属)でしかないような代物を、
私は映画と呼ぶことはできません。

中島哲也監督は、もう信用出来できなくなってしまいました。
  

Posted by henry at 00:27Comments(0)

2010年02月06日

「ラブリー・ボーン」


監督:ピーター・ジャクソン
脚本:フラン・ウォルシュ/フィリッパ・ボウエン/ピーター・ジャクソン
撮影:アンドリュー・レスニー
編集:ジャベツ・オルセン(新人)
出演:シアーシャ・ローナン/マーク・ウォールバーグ/レイチェル・ワイズ/
   スタンリー・トゥッチ/スーザン・サランドン


「乙女の祈り」「ロード・オブ・ザ・リング」「キング・コング(2005)」のピーター・ジャクソン監督最新作。
過去作品から、想像力豊かで、ダイナミックかつ迫力満点のエンターテイメント監督、というイメージがあったので、とくに本作品はどんなファンタスティックな「あの世」を描いてくれるかを楽しみに観に行ったのですが、その辺はちょっともの足りなかった。

一番好きだったのは、巨大化したガラス瓶の中の船が波間でガンガン壊れていくシーン。
壊している父親の感情も伝わってきて、いい場面でした。
また、枯れ草の草原が海に変わるシーンもなんか好き。
もっとそういう空想世界を観たかった!!!!!

期待した、天国と現世の狭間の世界で主人公の女の子が遊ぶシーンは、
個人的にはサラッと流されたな〜、くらいのボリュームでした。
それなりに、だけどイマイチ!
いつものイマジネーションの豊かさよりはだいぶ欠ける気がしました。
(たとえば〜観た人ならわかるはず〜いつもならあの雪山を滑るシーンで、
 もっと迫力ある(主観ショットとかね)撮り方してたのにな・・・とか。)


ピーター・ジャクソンなりの「あの世」の世界をもっとみたかった。次回に期待。







←ウユニ塩原。
行ってみたいけど
CGなら、いとも
簡単に作れるん
だろうね。




30キロものぜい肉をそぎ落として、ついでに
イマジネーションまでそぎ落としたのでは?
というか、このひどいヤツれよう、病気じゃないだろうか?


(左)ダイエット前の
ピーター・ジャクソン

(右)ダイエット後の
ピーター・ジャクソン(右)(左は製作総指揮のスピルバーグ)





さて、全体的にはどうだったかというと、残念ながら完成度低し、といったところ。
私には肝(キモ)が見えない映画でした。
さりとて映画館で観て損する映画ではないんですけれど。
(映画館で観てソンをするような映画はこのブログには載せません。)

もともと物語というよりかは映像先行の監督だと思いますが(思ってきましたが)
前述の通り、今回はそっちにさほど力が入ってない気がしました。
撮り方も、カメラはいつも通りほとんど動いているのですが(フィックス嫌いなだけかも)
今回は常に躍動感が必要な映画でもないですし、
ミステリーの要素・・・犯人探しの緊張する場面でも、ヒッチコックの踏襲…と感じたし、
逆にどこを観て欲しかったのだろう?と考えてしまうのです。
ついでに言うなら、編集もあんまりよくなかった。


また物語の部分、つまり脚本についても同じことが言えるのですが、
ありきたりな話だと思うんですね。仏教でいう因果応報?みたいな。
・・・腑に落ちないんですよね、何が言いたかったのか。

この話は原作があって、原作者とは別に、監督含め三人で脚本を手がけています。
だからというわけではないけれど、何かまとまりのない印象です。
色々な要素をゴタゴタと取って付けて、無理矢理まとめたような話。
キモがないのは、背骨のない脚本のせいもあると思います。

ここからネタばれあり。

たとえばあの夫婦愛の描き方しかり、
実は犯人は連続殺人犯だった!的なオチ?しかり、
そしてあのラスト(犯人と、少女と、残された家族の顛末)しかり。
なんだ、よく見る感動系に仕上げたかったのか、と。
ラストショットも印象なく憶えていないくらい(笑)

ネタばれ終わり


映像的アイテムを使うアイデアは監督のものだったでしょうね、
あの天国との境目であるらしき木とか、(何かしら意味があると思いますが)
金庫、穴、薔薇、氷柱(ツララ)などなど・・・
見た目はおもしろくなる。しかし期待するほどの効果・あるいは使われ方ではなかった。
(もともと、映像記号を使うような監督ではないですが。)


ホント、痩せてから何かが損なわれた感のあるピーター・ジャクソン監督。
心配しつつも、次回にまた期待。

かといって、重ねて言いますが、映画館で観てソンするような映画ではないです。
特に主役のシアーシャ・ローナン、かなりカワイイです。
彼女の笑顔がこの映画を支えているといっても過言ではないくらい。
ぜひ映画館で鑑賞を。
ただしスーザン・サランドンだけは目をそむけても結構。
(彼女のこの映画での使われ方は悲惨きわまりないです。)
  

Posted by henry at 23:30Comments(0)

2010年02月02日

「パブリック・エネミーズ」


監督:マイケル・マン
脚本:ロナン・ベネット/アン・ビダーマン/マイケル・マン
撮影:ダンテ・スピノッティ
出演:ジョニー・デップ/クリスチャン・ベイル/マリオン・コティヤール ほか


今年からは、フィルム鑑賞したものはなるべく全作
感想だけでもこのブログに残そうと思います。

実在したアメリカの伝説的ギャング、ジョン・デリンジャーの人生の物語。

大恐慌時代に大胆な手口で銀行を襲う強盗として人気者だったジョン・サリンジャー。
しかしジョニー・デップ演じるこの強盗のソコがそもそもあんまり描けてない。

140分ありながら、ドラマでありながら、
キャラクターが作れていない、人間を描けていない。という印象を持った。

特に、ジョン・デリンジャーを追う捜査官役のクリスチャン・ベイルに関しても、
映画が終わってから彼はその後自殺したというテロップが出るのだが、
そこまで(人間性を)描けていないので、
それを観客に知らせること自体が中途半端に思ったくらいだ。

ギャング映画として、男の子映画としては充分楽しめた。
銀行強盗をするシーンや、脱獄する時のワクワク感がいい。
これぞメジャー映画を観てるぞっていう実感があって。

アクションシーンとしては終盤の、
森のモーテルでの銃撃シーンが好きだ。
夜の森の照明の色や使い方も好きだし、
(この時のクリスチャン・ベイルが一番かっこいい!)
また静かな夜の森にひびく音がとても大きくて、
銃の閃光も派手で面白かった。

音と言えば、ふいに無音になったり、
環境音だけになったりするのが気になった。
特にその銃撃シーンのあと、森の中を逃げるシーンなどで
息づかいだけ聞こえる場面の緊張感はよかったと思う。
(無音で背後に見える追っ手が起き上がるシーンも)
ただ全てがうまく行っているとは思えなかったけど。

音楽はビリー・ホリデイの曲が使われていたのが個人的に好きだった。


またマドンナ役のマリオン・コティヤールの演技は序盤の媚びた女の演技の演技から、
夢が消えさり、現実に引き戻されるまでが目の輝きひとつで感じられた。
やはりフランス女性には憂いが似合う。なんつて。


そして、この映画でもっとも残っているシーンはラストシーンだ。
彼女の主観ショットで終わるのが印象的だった。
彼女の夢が終わった瞬間。
彼女はまた、ホテルのクロークに戻るのだろう。  

Posted by henry at 01:01Comments(0)